
ホックニーときいて、美術に詳しくない頭に浮かぶのは、晴れた夏の日のプールの水、静かなホテルの部屋、エッチング風の椅子に座った人物……。
印象としてはちょっとポップな感じ、という大雑把なものにすぎませんでした。しかし、この画集で一挙に惹きつけられ、私にとって、他の多くの画家とは区別
し得る特別な画家の一人となりました。
ドッグデイズとタイトルになっているように、この本に収められた作品はすべて、ホックニーの2匹の愛犬であるダックスフントを描いたものです。それもほとんどがクッションの上で眠っている姿です。ざっとページをめくればパラパラ漫画になりそうなくらいどれも似たような画で、感情移入できない人が見れば、汚れた黄色いクッションに茶色いかたまりが転がっているだけのものですが、何十枚でも何百枚でも描かずにはいられない愛するものへの執拗さが、この画集の最大の魅力です。
デッサンが好きだとホックニー自らが言うように、ダックスのダックスらしさが、デッサンの力で存分に発揮されています。油絵の他に、クレヨンで描いたドローイングも含まれているのですが、さらさらと簡単そうに描いたものにこそ、画が上手い人のその尋常でない上手さがうかがえます。
さらに、おそらくダックスフントを飼った人間にしかわからない、ちょっとした動作や表情が実に的確に捉えられていて、犬バカ心を大いにくすぐります。
眠っているときの体のまるめ方。仰向けになって寝ているときの手足の様子。片耳をクッションに押しつけ顔を立てて眠る癖、そのときの耳のめくれ具合。飼い主を目だけで追う際の上目遣い。そういった仕草を愛らしいと感じていることが、描かれたダックス一匹一匹から伝わってきます。
これは前回取り上げたターシャ・テューダーにも感じたことですが、ものを作る人間は、自分の好きなものだけを執拗に描き続ければよいのではないか、いや、そうすることによってしか、他人の心を揺さぶるような何かを伝えることはできない。この画集によって、その考えをいっそう強くしました。
また偶然にも、『ダ・ヴィンチ』(2000年11月号)で平間至氏が写真についても同様のことをインタヴューで答えていて嬉しくなりました。一つの被写
体をただ好きだから撮る、仕掛けもなく最小限にとことん撮る、そうすることで作者の愛情が伝わり、結果
的に見る方も楽しめる、と。
幸か不幸か、この私の書評は依頼があって書いているものではないので、本の選択にかなり偏りがあります。しかし、だからこそお世辞やしがらみ抜きに、好きだということだけが全面
にでています。一度、資料として読んだ本(面白くはあったのですが)を取り上げようとしたところ、書き進めることができませんでした。
したがってこれからも、犬やオランダに関する本を取り上げることが多くなると思います。でも個人的には、この『David
Hockney's Dog Days』の裏表紙にあるような状況が理想なので、取り上げた本が好きだというのが、少しでもたくさん伝わっていることを願うばかりです。