『バンド・オブ・ザ・ナイト』 中島らも 著 (講談社)

   いかなるジャンキー作家でも、きちんとした作品を制作しているときは意識は明瞭、思考も整然としていたはずで、クスリをやりながら創作されたかのごとく論じられているのをよく目にしますが、絵画であれ小説であれ、それが一見どんなに支離滅裂、妄想の極限のようであっても、一つの作品として形をなし、しかるべき期間人々の支持を得てきたものは、明晰な脳のフィルターを通 して生み出されています。

 当たり前のことかもしれませんが、ドラッグにのめり込んでいる時は、それだけで満たされた精神状態にあるので、何かを創り出そうという気にはならず、また、自分だけの至福の経験をわざわざ絵なり言語なりに置き換えて他人に教える必要もありません。従って、最強のジャンキー作家が描く究極のジャンキー小説なるものも、“ジャンキーの世界”そのものではありません。

 つい先日、サッカー欧州選手権がオランダで行われたとき、イングランドの悪名高きフーリガンはマリファナを吸っていたために凶暴化することもなく(知り合いのオランダ人もアルコールはハイ、マリファナはダウンとよく言っています)、逮捕者ゼロだったことをオランダは誇っていました。マリファナのおかげで屈強の暴徒たちも幸せになってしまい、何もする気がしなくなったのでしょう。ちなみに、その次のベルギーにおける試合では、フーリガンたちはまた大暴れしました。

 なんだか、この文章もとりとめがなくなってきましたが、私は残念ながらまだ至福の体験を味わえずにいます。一生に一編ぐらいはもの凄いジャンキー小説を書いてみたいものですが、当然ながら、クスリをやれば凄い世界を目の当たりにし凄い作品が書けると思うのは幻想・妄想の最たるもので、凄い小説を可能にするのは、自己をも冷静に客体視でき、かつその後に言語化できる能力です。

 つまり『バンド・オブ・ザ・ナイト』は著者自らスランプを脱した後に書いたと言う通 り、ひとつのきちんとした小説です。その証拠に、ストーリー性は低いかもしれませんが、いや低いにもかかわらず一文・一語たりとも難解なところはなく、これだけの長さの文章を最後まで引っぱって行けるのです。ただのラリった人の意識の垂れ流しだとしたら、健康な読者がどれだけつき合えるか、想像してみるまでもありません。

 しかし、中島らも氏の本を読むときは、どういうわけか必ずカネテツデリカフーズのCMソングが流れて困ります。♪テッチャン、テッチャン、カネテッチャン、ちくわとかまぼこちょうだいな……。

 そういえば、『啓蒙かまぼこ新聞』なる面 白い本(1987年初版、ビレッジプレス)がありました。村上春樹氏が解説を書いていて、それも今と少し文章の雰囲気が違ってストレートな感じがよくて、と、なんだか私の文章のほうがだらしのない意識の垂れ流しに近づいてきたようなのでこのあたりできりあげたいとおもいます……へい、へい、まいど、ありがとさん♪。


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