犬日記2001 夏 その1


8月某日 

 この頃、毎日夢をみる。
 めいっぱい遊んだ後の、昼寝のときなんかに、わりとよくみるらしい。
 「なんの夢みてたの?」
 目が覚めるといつも聞かれる。
 そういわれてもな…。

 どうやら、起きているときには出したこともない声で、
 しきりに何かしゃべっているようだ。
 低い唸り声で威嚇しているときもあるという。

 起きているときは無駄に吠えたりしないし、
 人や犬に向かっていくことなんてまずない。
 向かっていくどころか、何であれ生き物が近寄ってきたら
 取りあえず逃げる。

 寡黙な超臆病犬の夢。
 ウチのひとが今一番しりたいことはそれである。

 


 

8月某日 

 病院でレントゲンを撮ったら、思わぬことが判明した。
 疑われていた膀胱や尿道に異常はなかったが、
 右の後ろ足にあらたな問題が見つかった。

 ちょっとばかり股関節がズレている。
 そう言われてみれば、たまに足が引っかかるような感じがして、
 ケンケンをすることがある。
 でも、手術をする必要も、特に気をつけることもないそうだ。
 体重が軽いので支障はないらしい。
 足がズレてるけど問題なし?
 まあ、毎日全速力で走れるからだいじょうぶだろう。

 それに、実は心臓だって不整脈なのだ。
 病院の話ばかりしていたら思い出してしまった。
 でも、これも特に心配はないと言われ、
 いままで何ともなく暴れ回ってきた。
 普通の犬より運動量は多いし、息もめったに荒くならない。

 膀胱炎だし、足はズレてるし、不整脈だけど、
 散歩に行かない日はないし、ごはんがまずい時もない。
 4年間生きてきて、風邪らしい風邪を引いたこともなければ、
 お腹を壊したことも一回しかないのである。
 嘘のようだけど、毎日ほとんど絶好調なのである。

 


 

8月某日 

 モモだモモだ。モモモモモモモモ。
 またモモが届いた。
 段ボールの隙間から、あの甘い匂いが漂っている。
 うー、モモモモモモモ。

 膀胱炎なので、ほんとうは療法食以外たべられないのだけど、
 ちょびちょびかけらを貰ってしまう。
 今日は最後にお皿の果汁も舐めさせてくれた。
 「とてもおいしいからとくべつね。」

 果物の絵が描いてある段ボールのときは、
 いつもおいしいものが入っている。
 『紅光』ってとてもおいしいらしい。

 この前、散歩をしていたら、同じ段ボールが捨てられていた。
 思わず鼻をくっつけてにおいを確かめ、
 ぺろりと舐めようとして、怒られた。

 


 

8月某日 

 お盆が来て、また街が急に静かになる。
 シャッターを下ろしている店が増える。
 いつも吠えかかってくるテリアの声が、ここ何日かしていない。
 ビーグルの散歩相手が今朝はおじさんだった。
 コーギーの相手もおじさんだった。
 ラブラドールはおにいさんと走っていた。
 みんなふだんならおばさんと歩いている犬達だ。

 ビーグルがちょっと歩きにくそうに、こっちを振り返りながら通り過ぎた。
 「よく歩きますね」
 ガーデニング婆が笑いながら声をかける。

 お盆でも夏休みでもいつもと同じく楽しい散歩。
 街は昼間も静かなままで、ぐっすり眠って夢をみた。

 


 

8月某日 

 この頃荷物がよく届く。
 お取り寄せ、というのに凝っているらしい。
 朝一番で来るのが、ネコのマークの宅急便だ。
 ウチのすぐ前に集配所あるので、いつも決まった時間にやって来る。

 受け取る間、静かに待っていればご褒美がもらえる。
 今朝のご褒美は、福島の桃と、神戸の手作りハム。
 甘党の肉食獣には、桃やハムは堪えられない。
 「モモ」も「ハム」も一瞬にして覚えた。これからは絶対に聞き逃さない。
 「モモ」「ハム」いい響きだ。モモハムモモハム。

 段ボールの箱が来たら、真っ先ににおいを確かめ、
 隙間があれば鼻を突っ込む。
 つまらないのは本のとき。残念だけど、本の場合がけっこう多い。
 美味しくない物があまり続くと、箱や袋をひっかいたり囓ったりする。
 プチプチしたビニールシートが意外と面白かったけど、
 ちょっと振り回していたら、やっぱりすぐに飽きてしまった。
 モモハムモモハム……。

 

 

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