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5月某日
動物病院に行くたびに、迷い猫や迷い犬の貼り紙が増えている。
子犬や子猫の里親募集の紙もたいていある。
レトリバーの赤ちゃん譲ります、
という大きな写真つきの貼り紙を見ていたら、診察を終えた猫が出てきた。
ブチの猫は工場の作業着を着たおやじに持たれ、
だらんと長く伸びたお腹が丸見えで、魚の開きみたいな格好になっていた。
おやじは猫を自分の車に置きに行ったが、すぐに診察代を払いに戻ってきた。
おやじは、こっちをちらちら見ながら、受付で先生と話をした。
「じゃあ、カルテを作りますから、ここの太枠の中を記入してください」
「うん?名前?オレの猫じゃねえんだけどな。
まあいいか、取りあえず書いときゃあいいか」
「そうですねえ」
「社長がさあ、自分で来りゃあいいんだよな。
工場に入ってきちまった猫なんだからさあ」
「今日、注射しましたから、様子をみるために、
また明日の午前中に来てください」
「ああ?明日?オレ、たぶん二日酔いで来られねえよ。明日、日曜だよねえ」
「ええ、午前中なら診察してますから、なるべく」
「うんん、来れっかなあ」
「念のため、来てください」
「社長が来りゃあいいんだよなあ。
まあいいや、わかったよ、来るよ。明日の午前中ね」
「はい。じゃあ、今日は注射代で4000円になります」
「え?4000円?そんな安いの?
保険きかねえっていうから、2万もあずかって来ちまったよ」
おやじは笑いながらこっちを見て、
ズボンのポケットからくしゃくしゃの一万円札を取り出した。
「はい、何かあったらすぐに電話してください」
「うん、わかったわかった」
「おだいじに」
「うん、どうもね」
おやじは受け取ったおつりをポケットに押し込むと、
居心地が悪そうにまわりを見回した。
出ていく間際、おやじはまたこっちを見て、
バイバイと言って帰っていった。

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