犬日記2001 春 その1


3月某日 

 久しぶりに病院へ行く。
 病院へのコースはわかっているので、
 連れて行かれそうになると慌てて引き返す。
 でも、どんなに抵抗してもまったく無駄だ。
 3.9Lの体はひょいと宙に浮き、そのまま病院まで運ばれる。

 受付の赤毛のねーさんとは顔なじみだ。
 残念ながら、診察券を忘れてもカルテは手際よく準備される。
 待っている間、どうしても震えてしまう。
 何回来てもなかなか慣れない。
 奥で行ったり来たりする手術着姿の大先生が見えた。

 呼ばれて診察室に入る。いつもの若い先生だ。
 体重3.9L、変わらず。理想的なボディ。
 体温39度、ちょっと高め。走って来るし、緊張気味なのでいつも高い。

 他には、ええと特に問題……ないですね。
 いつもおとなしいねえ、毛並みがいいねえ、顔が長いねえ。
 顔が長いのか……。

 今日は肛門線しぼりだ。
 肛門の両脇にある袋をぎゅうっと絞り上げてもらう。
 茶色くてすごく臭い液が出る。
 出した後は気分がいいので、ちょっとの間我慢する。
 痛くされたことはないけれど、先生は肛門線絞りがとても巧くなった。
 先生がこの病院に来たときに比べれば、
 ほんとに気持ちよくやってくれるようになった。


 

3月某日 

 朝、起きる時間がどんどん早まる。
 オシッコもたくさん溜まっているので、
 夜明け前からウロチョロウロチョロしてしまう。

 明るくなるのを待って、散歩出発。
 まず放尿、二、三歩あるいて快便。

 行く手に柴が現れた。
 また、ひとり角を曲がってやって来る。
 この前は、不意をつかれた。
 尻を丸めてウンコをしている最中に、後ろからにおいを嗅がれたのだ。

 急いで横道に入って、柴をやり過ごす。
 ズルズルと紐を引きずった柴の後から、おやじがついて来た。
 片手をポケットに突っ込み、もう片方には文庫本を持って、
 なにやら夢中に眺めている。
 こっちにはぜんぜん気がつかない。

 柴たちが行って、ひとまず安心。
 追っては来ないけれど、ビュンビュン飛ばして駆け抜ける。
 と、猫がよぎった。
 猫が消えて行った方に、後を追ってそのままの勢いで突き進む。
 猫はもうどこかに行っていた。
 猫はけっして近寄って来ない。


 

3月某日 

 おはよう、って言われて嬉しいお目覚め。
 朝の散歩。
 糞してシッコして走って走って今日も爽快、絶好調。
 朝ご飯、嬉しい嬉しい。食後のマウント。

 休憩、家の人にぺっとりくっついて安心お休み。
 復活、ひとあばれ。
 ボールを投げてもらってパワー全開。
 オシッコをきちんとトイレで、ご褒美ご褒美。
 オシッコは一度で出さずに二回にわけて、ご褒美たくさん。

 靴下をくわえて家中逃げ回る。
 こら、って言われて嬉しい嬉しい。
 ちょっと休憩。
 膝の中にすっぽり丸まり、安心安心。

 夕方の散歩。
 朝と違って人がいっぱい。
 パン屋、銀行、CD屋、薬屋、いろいろ行った。
 人が寄ってくるのは嫌だけど、お店に寄るのは楽しい楽しい。
 お寺でおさいせん。
 何かいいことがある日はおさいせん。

 散歩の後は一緒におやつ。
 いいこ、いいこ、って言われてよい気分。
 お掃除タイム。掃除機は少しだけ我慢。
 早めの夕ご飯。
 今日は留守番しなくてよくて、嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい。

 ひとさわぎして、食後のマウント。
 食べてすぐあばれたせいで、なんだかちょっと気持ち悪い。
 膝の中で丸まり休憩。

 急に眠くなって、ウトウトショボショボ。
 いつもとかわらないけれど、楽しい楽しい誕生日。


 

3月某日 

 オシッコがたくさん出てしまう。
 気がつくと、膀胱がパンパンで、トイレに行くまで我慢できない。
 出始めるともうどうしようもなくて、叱られようが、持ち運ばれようが、
 ジョージョージョージョー……。
 そのまま最後の一滴まで出してしまう。

 こんなおとなになって、粗相をするなんて。
 赤ん坊の頃でさえ、ふとんの上でしたことなんてなかったのに。
 ましておとなになってからは、お漏らしだけはぜったいにしなかった。
 まあ、嫌がらせの時は別だけど。

 原因はごはんだ。
 少し前から、ボーコー炎の集中治療のため、
 オシッコがたくさん出るご飯を食べている。
 灰色のゴムみたいな缶詰で、オシッコの中の結晶を溶かす力が強いらしい。
 先生も認める不味いごはんだ。

 でも、毎食毎食ばくばく食ってしまう。
 そしてオシッコをジョージョー出す。
 さっきも、もう終わりだと思って動いたら、
 まだ全部出しきっていなくて、あたりに撒き散らした。

 はじめはすごく叱られたけれど、
 ごはんのせいだとわかってからはあまりうるさく言われなくなった。
 ただ、ごほうびは貰えなくなった。
 オシッコをトイレできちんとしたときのごほうびだ。
 ………。

 でも、徐々に膀胱のいっぱいになり具合がつかめてきた。
 粗相もしなくなった。
 オシッコの回数が多い分、前よりたくさんごほうびが貰える。

 

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