犬日記2000 夏 その3


9月某日 

 夏の終わり、久しぶりに雨が降った。
 一日中雨が降り続くことはあまりないのに、
 散歩に行くすきもないほどずっと降っていた。

 いたずらにも昼寝にも飽きたので、雨の中、夕方の散歩に出た。
 家の近くをひとっ走りしただけで、いつもよりたくさんの犬に会った。
 柴、ビーグル、シベハス、柴、柴。雨に濡れても足取りは変わらない。
 晴れた日は庭先で駆け回っているヨークシャーテリアが、
 家の中でキャンキャン吠えていた。

 レインコートを着ているマルチーズが電柱にいた。
 ウンコを拾っているおばあさんのレインコートも同じ柄だった。

 前にレインコートを着たことがあったけど、
 なぜか一歩も動けなくなってしまった。石にされたみたいだった。
 脱いだ途端に、走り出したくなった。

 何か着たり、付けたりするのはいやだけど、耳が濡れるのも好きじゃない。
 やっぱり乾いた道を裸で走るのが一番だ。

 雨が降るごとに涼しくなってくる。
 まだまだたくさん走れるけれど、
 うんこもしたしお腹も耳もビショビショになったので、
 ブルッとからだを一振りして急いで帰った。

 

 

8月某日 

 暑いのでなかなか夕方の散歩に出られない。

 犬は寒さより暑さに弱い。
 特に足の短い種類は、地面に近いぶん暑さに気をつけなければならない。
 
そういえば、大きい犬はじっとしているだけでも、
 舌を伸ばしてヘッヘッヘッヘ息を荒くしている。

 ふつうの散歩で走っている犬はあまりいないので、
 池の周りを駆けていたりすると、「走ってる」「速いね」とよく言われる。

 足が短いので小走りしているだけでも、「一生懸命歩いてるよ」となる。   でも、息が荒くなることはめったにない。
 舌も伸ばさない。水もあまり飲みたくならない。

 夏でもメシは旨いし、たくさん走れるし、
 いたずらもしたくてしたくてしょうがない。

 絶好調で暑い道を疾走するから、今日もまだまだ散歩に出してもらえない。  窓辺にいって、夏の午後の強い日差しで日光浴をしてみた。

 やっぱり暑くてすぐやめた。 「バカ?」と言われた。

 

 

8月某日 

 散歩の時に、一番たくさん会うのは猫である。

 垣根の向こうで窺っているやつ。
 大きな植木鉢の陰で伸びてるやつ。
 スーパーの惣菜部の裏で、餌をくれるおばさんを待ってるやつら。

 猫通りと呼んでいる路地もあって、
 そこには大小六、七匹の猫が日向ぼっこをしたり、
 みんなでくっついて眠ったりしている。
 池のほとりに行くと、おじさんに紐をつけられて、
 細い鉄柵の上を綱渡りのように歩いているやつもいる。

 ほとんどの猫は、人や犬が近寄ってくる気配で逃げる。
 でも昨日は、人がそばに寄っても逃げないやつがいた。
 顔の毛が抜けて皮膚が赤くなっていて、すごく痒そうだった。

 そいつの前には、三人の痩せたおばさんがいた。
 じっとそこにいるだけのそいつに、しきりに声を荒げていた。
 「はやくむこうにいきなさい。ほらっ」

 そのとき、手入れの行き届いた白いシーズーが通りかかった。
 おばさんたちの声が急に猫撫で声になった。
 「あら、かわいこちゃん来たわよ」
 「あたし、あれ飼いたいの」


 


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