犬日記2000 秋 その4


11月某日 

 何匹も一緒に散歩をしている犬達がいる。

 2匹連れはわりと多い。
 同じ種類でどっちがどっちだか見分けのつかないのもいるし、
 大きさも性格もぜんぜん違うコンビもいる。

 同じ種類だと、それぞれが好き勝手に動き回っている。
 赤い首輪のビーグルと青い首輪のビーグルは、
 いつも反対方向に行こうとしている。
 昨日、赤ビーグルがウンコをしているのに、
 青ビーグルは プードルの尻を追いかけてリードをぐいぐい引っ張っていた。  大きい犬と小さい犬の組み合わせの方が、上手に危なげなく歩いている。
 大が小に合わせているだけだろうが、
 なぜか小の方が先頭切ってしっぽを上げて、ものすごく偉そうだ。

 きょうはミニチュアダックスの4匹連れがいた。
 黒くて毛の長いやつで、4匹とも同じようにがっしりと強そうだった。
 みんな落ち着きなく動き回っていた。

 一匹が気づいて大きな声で吠えた。
 この犬種はミニチュアとはいっても、
 低くて太い声をしているのでみんなびっくりする。

 その声で、他の3匹もそれぞれの反応を示した。
 猛然と走って来ようとするやつ、逃げるやつ、我関せずのやつ。

 リードを両手に持ったおばさんは、
 放射状に広がった4匹のダックスの中心で、
 車や自転車や子どもを避けながらくるくるくるくる回っていた。

 

 

11月某日 

 甘党なのだ。

 特に、アイスと黒糖風味には目がない。
 アイスは乳っぽい味が強いほどよい。
 黒糖は蒸しパンを食べて以来、やみつきになった。

 しかし、おやつは無闇にいただけない。
 きちんとトイレで用を足せたとき。
 知らない人が来ても吠えなかったとき。
 病院でおとなしく診察を受けたとき。
 おやつが貰えるちゃんとした理由は、まあそれくらいだ。

 これだけじゃぜんぜん物足りないのである。
 どうにかして、おやつにたくさんありつきたい。

 いつも朝晩のメシの支度をしてくれる奴は、
 なかなか手強くて思うようには貰えない。 
 そこで、もうひとりの方にねらいを定めた。
 こっちはもっぱら遊び相手で、
 強めに咬んでも、少しぐらい騒いでもあまり怒らない。
 怒っても怖くない。
 
そして、ちょうどいい具合に、ときどきデザートを食べる。
 プリン、ヨーグルト、ケーキ、アイス。甘い物好きである。

 冷蔵庫の扉を開ける音がしたら、何が何でも全速力で突っ走ってゆく。
 おやつを取り出すかどうか。
 アイスが入っている場所は知っている。ちょっと下の方のケースの中だ。

 じっと見守る。
 アイスだったら足に飛びつく。執拗にくいさがる。
 アイスは冷たくて甘くて最高だ。  

 この頃は欲しいときにアイスを貰う方法を覚えた。  
 相手の正面でお座りをして、顔をじっと見つめる。
 力を込めて見る。根比べ。
 気づかないふりをされても、絶対にあきらめない。

 じき、冷蔵庫のアイスの扉が開かれる。
 あまいあまい。

 

11月某日 

 思わず大きな声で吠えてしまう音がある。

 鈴の音。
 人間のドタバタした足音。
 ビニール袋のガサガサという音。

 これでもかなり寡黙な方だと思うけれど、
 この3つの音だけは、びっくりした拍子に大きな声が出ている。

 鈴の音は、生まれたときから、
 いやもっと前からなんだか嫌だったような気がする。

 迫ってくる人の足音は、ただもう怖いだけだ。
 外にいて逃げ出せるときはひたすら走ればいいが、
 それでも怖くて走りながら吠えている。
 ぜんぜん見当違いな方に向かって吠えているけれど、
 そんなことを気にする余裕はない。

 ビニール袋の音はこの頃ようやく慣れてきた。
 でも、不意をつかれると体が飛び退くほどびっくりする。

 ビニールのガサガサ音は、街に案外と多い。
 風の強い日、突然舞き上げられるビニール。
 ゴミ箱の陰で、カラスにつつかれているビニール。
 スーパーでたくさん買い物をしたおばさん。

 最近は、改築中の家に掛けられたビニールシートが気になって仕方がない。
 ちょっとの風でもガサガサいうし、
 側を通った時いきなり大きく膨らんできたりする。
 ビニールの陰から工事の人が声をかけてくることもあって、
 そのたびにびっくりして声をあげてダッシュで逃げては叱られる。

 なぜかこの頃、ビニールの掛かった家が急に増えた。
 寒くなって冬毛になるみたいに家々がくるまれてゆく。

 冬毛になった家の前で逃げたり吠えたりひとり忙しい。
 だけど、明日の散歩もやっぱり同じ道を行くのである。

 

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